ECサイトで健全な運営を続けるためには、倉庫内における在庫の適切な管理が必要不可欠です。日々の業務に追われてなかなか管理できていない在庫状況を少しでも改善したいと考えている方は多いのではないでしょうか。
在庫状況を改善して適切に管理するためには、定期的に在庫分析を実施して適正在庫を維持することが大切です。そこで今回は在庫分析の基礎知識や代表的な分析手法、押さえておきたいポイントなどについて解説します。
目次
在庫分析の概要
自社の在庫を適正に保つ在庫分析は、コストの削減や物流担当者の負担軽減につながる大切な業務です。まずは、在庫分析とはどのようなものなのかについて解説します。
在庫分析とは|自社の在庫を適正に保つための項目
在庫分析とは、自社の在庫を適正に維持するために倉庫内の在庫状況を分析することです。PDCAサイクルでいうと「C(Check=評価)」に相当し、現状を正しく把握して倉庫内の状況を改善する上で重要な役割を果たします。
在庫分析によって明らかになる情報は、「倉庫内にどの商品の在庫がいくつあるか」という単純なものだけではありません。倉庫内においてどの商品が自社に売上をもたらしているか、自社にとって重要性が高くすぐに改善が必要な項目はどれかなど、改善施策につながる重要な情報が数多く含まれています。
また、在庫の把握は原価の把握にもつながることから、正確な利益を算出するためにも必要不可欠です。売上は販売個数に単価を乗じて算出できますが、利益は仕入れから期末在庫を差し引いて算出するため、倉庫内の在庫を把握していない状態では予測値しか出せません。
さらに在庫分析は倉庫のルールを明確に定めて健全な運用を実現したり、無用な生産工数を削減することでリードタイムを短縮したりする効果もあります。「在庫を数えるだけ」と思われがちですが、企業にとって非常に意義深い業務であることが分かります。
在庫管理の重要性
倉庫内の在庫は売れると利益になりますが、保管されている間は絶えず保管コストが発生しています。そのため、できるだけ在庫が倉庫内にとどまっている期間を短く抑えて、早い段階で倉庫から出荷される状況を作り出すのが理想的といえるでしょう。
あまりに長くとどまり続けた在庫は劣化によって販売基準を満たさなくなり、売上どころか廃棄コストまで発生させるリスクを抱えています。普段何気なく保管している在庫を徹底的に管理することで無駄なコストを抑制し、欠品による販売機会の喪失も防ぎます。
長い間動かなくなった商品や旬を過ぎて販売の見込みが薄くなった商品をいつまでも在庫として抱えておくと、売上につながる見込みがないのに倉庫内のスペースを圧迫したり、スタッフの管理工数を増加させたりする恐れがあります。
一般的には事業の拡大に伴って倉庫内の在庫も増えるため、無駄な在庫を持てば持つほど管理コストや物流担当者の手間は増大します。少しでも物流業務の負担を軽減するためにも、在庫管理は非常に重要です。
関連記事:在庫管理とは|在庫管理方法の詳細や適切な在庫管理で得られるメリットをご紹介
在庫分析の目的|健全なEC運営のために必要
健全なEC運営には、在庫分析を活用して不良在庫の削減や販売機会損失の防止を図ることが重要です。自社に利益をもたらしている商品を把握することも、販売施策を展開する手助けとなるでしょう。
不良在庫の減少や販売機会の損失をなくす
倉庫内にどの商品がいくつ保管されているか分からない状態が続くと、十分な在庫があるにもかかわらず発注をかけてしまい過剰在庫が発生したり、すでに欠品している状態で追加発注がかからず、ユーザーに需要がある商品を提供できない状態が長引いて販売機会を逃してしまうリスクがあります。
過剰在庫が起こると古い商品は少しずつ劣化が進み、消費期限内に販売できなかった在庫は廃棄しなければなりません。入荷分を販売できなければ売上が立たず、仕入れにかかった費用が丸ごとロスにつながるばかりか廃棄コストも発生するため、健全なECの運営を続けるためには過剰在庫は可能な限り避けることが望ましいといえます。
また、欠品は機会損失になるだけでなく、ユーザーの信頼低下を招く可能性も考えられます。例えば1ヶ月に1回程度同じ商品を購入しているユーザーが欠品により該当の商品を購入できなくなった場合、必要に迫られて他のECサイトで似たような機能を持った商品を購入する場合もあるでしょう。
欲しい商品が手に入らない状態が長く続くと、「いつも欠品しているからもうこのECサイトで商品を購入するのはやめよう」と判断されてしまうかもしれません。
在庫分析を徹底して自社の在庫状況を明らかにすることが、必要以上に商品を入荷して不良在庫に陥ることを防いだり、販売機会の損失を最小限に食い止めてユーザーからの信頼を維持することにつながります。
どの商品が利益を生んでいるのかを把握するため
在庫分析によってどの商品が自社に利益をもたらしているのか、逆に売上につながっていない商品はどれかなど、今後の販売施策に活かせるさまざまな情報を把握できます。
例えば、自社オリジナルブランドのAという化粧品が売上に貢献していることが判明したなら、その化粧品がどのようなターゲット層に受け入れられているのか、商品のどの特徴が求められて売上を伸ばしているのかなど、一歩踏み込んだ分析が可能になります。事前のターゲティングと実際に商品を必要としている層がずれていないかなどの分析もできるため、今後の新規商品の開発や自社主催のキャンペーン施策などに役立つでしょう。
また、売上につながっていない商品が分かれば、商品の改善施策を立てやすくなります。販売状況が芳しくない商品は、そのままであれば売上の低下を招く要因になりますが、上手く改善してヒット商品に改善できれば、売上を伸ばす余地が大きい金の卵であるともいえます。まずは倉庫内の在庫を分析することが、売上を拡大するための最初の一歩となるのです。
在庫分析方法の種類
ここでは、在庫分析の中でもよく利用される6種類の分析手法をまとめてご紹介します。
ABC分析
ABC分析は在庫分析の中でも比較的よく用いられる代表的な手法で、「重点分析」とも呼ばれます。単価が高い商品ほど在庫量を最小限に抑えてリスクを減らし、単価が低い商品は多めに在庫を確保して入荷の工数を削減することを目的としてい行われる分析法です。
ABC分析では倉庫内の商品を金額の多寡によってA群・B群・C群の3つのグループに分けて、グループごとに管理方法を分けて商品を保管します。例えば単価50,000円、10,000円、500円の3種類の商品があったとき、50,000円の商品はA群に分類して在庫10個、10,000円の商品はB群に分類して在庫50個、500円の商品はC群に分類して在庫100個などのイメージです。
この分析手法は倉庫内のアイテム数が多く、取り扱う商品の金額や在庫品目が多岐に渡る場合に有効で、在庫管理以外に生産管理や発注管理などの場面でも活用されます。A群、B群、C群の割合に明確な規定はありませんが、一般的にはA群が主力商品で全体の1割程度、B群が準主力商品で2割程度、残りの商品がC群で7割程度になるケースが多いようです。
バスケット分析
ECサイトの売上データを用いて、自社の商品を購入するユーザーがどの商品を一緒に購入する傾向にあるのかを分析する手法が「バスケット分析」です。例えば「おむつとビールは一緒に購入されやすい」という有名な研究結果がありますが、これは父親がおむつを購入する際にビールを併せて購入する割合が高いからという説が有力です。
バスケット分析を徹底して自社の商品の中で一緒に売れやすい商品の傾向が分かれば、倉庫の保管場所を隣接させたり近くに配置させたりして、ピッキングの手間を削減できます。一日の出荷量が多ければ多いほど、倉庫スタッフの作業を明確に効率化できるでしょう。
ECサイトにおいては実店舗を持たないケースが多いものの、実店舗を展開する企業でもバスケット分析は有効です。どの商品が一緒に購入されやすいかをあらかじめ把握できていれば、双方の商品を近くに並べて手に取りやすい導線を効率良く作り出せるでしょう。商品を配置する場所や高さによっても売上は大きく変化するため、レイアウトは非常に重要です。
また、商品の購入傾向を詳細に分析することで、どのようなユーザーが自社の商品を購入しているのかを正確に把握できます。ユーザー層が判明すればよりターゲットを絞った商品展開やキャンペーン施策などを打ち出せるため、効果的なマーケティング活動にも役立ちます。
ポートフォリオ分析
重要度と顧客満足度の高低によって倉庫内の商品を4つのエリアに配置し、どの部分が自社にとって改善しなければならない項目なのかを導き出す分析手法です。エリアはそれぞれ次のように分けられます。
- 右上エリア:重要度と顧客満足度が共に高い
- 左上エリア:重要度は低いが顧客満足度が高い
- 左下エリア:重要度と満足度が共に低い
- 右下エリア:重要度は高いが満足度が低い
右上エリアの重要度と顧客満足度が共に高い商品は、自社のストロングポイントとして積極的に強化を図ることが望ましいといえるでしょう。左上エリアにあたる重要度は低いものの、顧客満足度が高い商品はそのままの状態を維持できるよう努めます。
左下エリアは満足度は低いものの重要性も低く、すぐに対処しなくても重大な問題は起こりにくいと考えられる商品です。改善を急ぐ必要はないため、他の商品への対応を優先することをおすすめします。右下エリアは自社にとって重要度が高いにもかかわらず顧客が満足していない商品であり、早急な改善が求められます。4つのエリアの中では最も優先順位が高いエリアといえるでしょう。
緩動在庫・死蔵(デッド)在庫
長期間倉庫に保管されたまま動きがない商品を表す「緩動在庫」と、型落ちや商品の陳腐化が原因で売れる見込みがなくなった商品を表す「死蔵(デッド)在庫」を明らかにして整理する際に使用する分析手法です。
緩動在庫は将来的に売れる見込みがないわけではないものの、現在は長く倉庫にとどまっている状態であり、追加発注をかけると過剰在庫になって保管コストの増大や廃棄コスト発生するリスクがあります。そのため、適正在庫になるまでは入荷を一時停止する措置を講じる必要があるでしょう。
死蔵在庫は倉庫に保管しておいても売れる見込みがほとんどない商品であり、廃棄を検討しなければなりません。ただし、売上が上がる見込みのない死蔵在庫であっても商品自体に資産評価額が残っているのであれば、適切な償却処理が必要になるので注意が必要です。
緩動在庫や死蔵在庫を適正に処理しないまま放置すると、倉庫内の保管スペースを圧迫してピッキングの煩雑化を招いたり、管理コストを増大させたりする原因となるため、早めの対応が肝心です。
在庫回転期間分析
倉庫内の在庫が一定期間内に何回転しているかを表す「在庫回転率」を算出することで、在庫量が適正に維持しているかどうかを判断する分析手法です。在庫回転率が高ければ在庫が頻繁に入れ替わっていて比較的短期間のうちに商品が出荷されており、低ければ長期間倉庫内に保管されていることを表します。
例えば分析期間を1年間に設定した在庫回転率が4回であれば、1年間で4回在庫が入れ替わったことを示し、期間を1ヶ月に設定した在庫回転率が1.5回であれば、1ヶ月の間に在庫が1.5回入れ替わったことを示しています。
一般的には「(期首の在庫金額+期末在庫金額)÷2」で期中平均の在庫金額を求めて分析に使用しますが、季節によって在庫量の変動が大きい商品などは1年間の在庫金額を365日間で割って指標とする場合もあります。
在庫回転期間分析は競合他社と在庫状況を比較したり、在庫の推移を時系列に沿って分析したりする場合に向いています。在庫回転率が上がって倉庫に長くとどまるようになった商品があれば、原因を明らかにして改善施策を打ち出しましょう。
交差比分析
「在庫回転率×粗利益率」を計算して算出される、在庫が生み出している利益率のことを交差比率と呼びます。在庫回転期間を算出するとどの程度の期間で倉庫内の在庫が売上に変わっているかを把握できますが、その在庫が利益につながっているかどうかまでは把握できません。そこで、交差比率を使って在庫の利益率を求めます。
粗利益率は原価に対して売り手が上乗せしている利益の割合のことで、高ければ高いほど販売した際の利益は大きくなります。例えば、原価が100円の商品の粗利率が5%であれば販売額は105円、10%なら110円です。
一般的には、交差比率が高いほど売れ行きが良く利益率の高い商品であり、低いほど倉庫に長くとどまり粗利率も低い商品であると判断できます。
関連記事:在庫回転率とは|在庫回転率の基本知識や求め方のポイントなど詳しくご紹介
在庫分析グラフの作成方法
在庫分析グラフの代表例は3種類あり、それぞれExcelを利用して作成できます。ここでは、各グラフの概要とExcel上で作成する方法について解説します。
Zチャート
Zチャートというと難しく感じられますが、「折れ線グラフ」というとすぐにイメージが浮かぶ方も多いのではないでしょうか。一定の期間内の推移やデータの傾向を分析するために用いるグラフで、在庫分析においては在庫量や売上の傾向を見極める上で役立ちます。
横軸が月を、縦軸が在庫数や金額を表しており、グラフが右肩上がりであれば増加傾向、右肩下がりであれば減少傾向、水平に近ければ横ばいであることがひと目で分かります。
Zチャートは推移の分析に便利ですが、ある程度まとまった期間のデータがないと使えないというデメリットも抱えています。発売したばかりで十分にデータが蓄積していない商品などの分析には向かないチャートであるといえるでしょう。
【Excelでの作成方法】
- グラフのベースとなるデータを選択する
- Excel上部のメニュー一覧から「挿入」→「折れ線グラフ」を選択する
流動数曲線
流動数曲線は1種類の商品を大量に販売する場合に適している分析方法で、生産管理によく用いられます。ECサイトにおける単品通販用の商品の生産や、ひとつの部品を作り続ける工場などに適しているといえるでしょう。
横軸が日付、縦軸が数量を表しており、「累積計画」「累積実績」「仕掛品在庫」の3種類の折れ線グラフを使って現在の生産状況を導き出します。累積計画は「最終的に生産する予定の個数」、累積実績は「現在生産が完了している個数」、仕掛品在庫は「現在製造に取りかかっている個数」です。
累積計画と累積実績の差が仕掛品在庫量となることから、仕掛品在庫の折れ線グラフの傾きが生産能力を表しています。また、累積計画と累積実績の横幅が生産予定日数と比較したタイムラグを表しており、作業の進捗状況を確認できます。
流動数曲線は特別なデータを用意することなくひと目で生産状況を把握できる使い勝手の良さが最大のメリットで、誰でも簡単に扱えるシンプルなグラフです。
【Excelでの作成方法】
- 1.グラフのベースとなるデータを選択する
- Excel上部のメニュー一覧から「挿入」→「折れ線グラフ」を選択する
ヒストグラム
ヒストグラムは一見棒グラフと同じように見えますが、データが持つ意味は異なります。棒グラフは各グラフが独立したデータを表しますが、ヒストグラムにおいてはすべてのグラフがあるひとつのデータの内訳を示しています。
横軸が階級、縦軸がデータ度数を表しており、例えば国内人口に対する各年齢層の人数の分布などを示す上で適しています。ヒストグラムを活用するとある集団の特徴や傾向を分析できるため、ECサイトの全体の売上に対するユーザーの年齢層の分布を調べたり、特定のカテゴリー内の商品別の売上を比較したりする際に重宝するでしょう。
自社の商品を購入しているのがどういった層なのかを可視化できれば今後のマーケティング施策の方向性を定める上で有用な資料となり、売上の大きい商品が分かれば大々的なキャンペーン施策を打ち出すことも可能です。
【Excelでの作成方法】
- 「ファイル」メニューを選択し、「オプション」をクリック
- 「アドイン」→「管理」→「Excel アドイン」を選択し、「設定」をクリック
- 「分析ツール」のチェックボックスをオンにして「OK」をクリック
- Excel上部の「データ」メニューにある「データ分析」から「ヒストグラム」を選択
- ヒストグラムを作成したいデータを指定して「OK」をクリック
【コラム】需要予測分析の有用性
さまざまな分析手法を用いた需要予測分析は、在庫管理を行う上で有用です。なぜ有用性が高いのか、その理由をご説明しましょう。
指標を立てることで今後の在庫管理に役立つ
事前に需要予測分析を行って販売が見込まれる需要を把握しておくことで、適正な在庫量を維持しやすくなります。商品が売れる個数があらかじめ分かっていれば、生産数や仕入れ数をある程度絞り込めるため、過剰在庫を招くリスクを軽減できるでしょう。過少に生産して欠品を招き、機会損失が発生することも避けられます。
倉庫内の在庫量を適正に保つことは、在庫回転率を向上させて廃棄コストを削減し、早い段階で売上を立ててキャッシュフローを改善することにつながります。
統計から算出する方法が最も一般的
需要予測分析は統計から算出する方法が最も一般的です。あらかじめ設定した予測分析の着地点に向かって、自社の過去の販売データや一般に公開されているさまざまなデータを収集しましょう。より多くの統計が集まるほど、需要予測の精度は高まります。
予測に使われる手法は時系列分析法と移動平均法の2種類が代表的です。時系列分析法は過去のデータの推移から将来の需要がどのように変化するかを分析し、移動平均法では現在の時間軸を起点として過去3ヶ月のデータの平均値を算出して分析します。
在庫分析をして今後の経営に役立てよう
自社の在庫状況を明らかにする在庫分析は、適正在庫を維持して保管コストを圧縮したり、在庫の回転率を高めてキャッシュフローを改善したりする上で有用です。日々の業務が忙しく後回しになりやすい業務ではありますが、倉庫内の在庫分析を一定周期で徹底的に行い、最適な状態を保つことが重要であるといえるでしょう。
とはいえ、物流業務は物流担当者にとって負担が大きく、在庫分析にまで手が回らないという企業が多いのも事実です。規模が拡大するにつれて手間もコストも増大し、業務に追われているうちにさらに倉庫の状況が悪化する事態にもなりかねません。できるだけ早い段階で外注化を検討し、日々の発送業務から離れてEC運営の健全化に注力することをおすすめします。