目次
メーカーと消費者がECサイトなどのプラットフォームを使って直接取引を行うD2Cは、仲介業者に支払う中間マージンをカットできることからコストを抑えて利益を上げやすいビジネスモデルとして注目を集めています。
浮いたコストを顧客満足度の向上のために割り当てることも可能になり、商品やサービスの品質向上も図りやすいのが特徴です。とはいえまだまだ食品業界がECへ参入するハードルは高いと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、食品D2Cの成功事例を一挙ご紹介します。食品D2C事業を成功させるためのポイントもご紹介しますので、今後参入を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
食品D2Cの概要
近年注目を集めている食品D2Cですが、具体的にはどのような考え方を指すのでしょうか。まずは最新の市場の状況と共に、食品D2Cの概要を解説します。
食品D2Cとは
D2Cは「Direct to Consumer」の略称であり、「商品を製造したメーカーが消費者と直接取引するビジネスモデル」のことを指しています。これを前提とすると、食品D2Cは「食品に特化してD2Cのビジネスモデルで取引を行うこと」であるといえます。
従来のビジネスモデルでは、消費者が商品を購入するためにはメーカーが問屋や小売店などに商品を卸さなければなりませんでしたが、近年ではインターネットの普及によって誰でも手軽にEC事業を開始できるようになりました。
このことから、仲介業者を通さずに実店舗を経営する事業者が直接自社の食品をECサイトで販売するケースが増加しており、食品D2C市場は非常に活気あふれる市場になってきています。
D2Cと似た言葉にB2Cがありますが、B2Cは「企業と消費者の取り引き」を指しています。これに対してD2Cは「メーカーと消費者の取引」であり、商品を製造した事業者が直接消費者と取引を行うことに限定して使用する言葉です。
市場の状況
株式会社矢野経済研究所が2021年4月に発表した「食品D2Cサービス市場に関する調査」によれば、2019年度の食品D2Cの市場規模は215億円となっています。これに対して2020年の見込みは340億円で、1年間に約58%もの急激な伸び率を記録しています。
これは社会情勢などの影響によって自宅で過ごす人が増加し、ECサイトを通じて食品を購入する人が増えたことに由来するとみられています。旅行の代わりに遠方地域の名産品を取り寄せる「お取り寄せ需要」も、食品D2C市場の成長に貢献しているといえるでしょう。
2018年度の食品D2Cの市場規模が113億円に過ぎなかったことを考えると、2年間の間にD2C市場は約3倍もの規模に成長しており、今後もさらなる発展が期待できる市場であるといえるでしょう。
食品のEC化率はまだ市場全体から見るとわずかであり、伸びしろがある市場であるといえます。近年は大手企業も続々と食品D2Cに参入してきており、さらに多くの企業が追随すると考えられます。特にD2C市場では消費者の好みに合わせたニッチなブランドも展開しやすいため、独自性の高い企業も数多く登場してきています。
食品D2Cの成功事例
近年では、さまざまな企業が食品D2Cに参入しています。ここでは、食品D2Cのさまざまな成功事例をご紹介します。
日清食品
日清食品は「カップヌードル」に代表される、即席めんなどの加工食品を扱う企業です。同社が食品D2Cに参入してECサイトを立ち上げたのは2000年のことであり、食品ECの先駆けとなった企業のひとつであるといえるでしょう。
とはいえ、EC事業の開始当初はケース単位の販売で配送までにも長い時間がかかるなどの課題があり、2016年のサイトリニューアルを機に顧客満足度の向上に努めることとなりました。サイトの使いやすさや見やすさを重視して大幅な改良を加え、現在ではあらゆる商品を1食から購入可能で、即日出荷にも対応しています。
ECサイトを「自社商品なら何でも揃い、最も便利に変える場所」と位置づけることで顧客にとっての利便性を確保し、賞味期限が近い商品のアウトレット販売や新商品のECサイト先行販売なども行っています。
BASE FOOD®
BASE FOODは「完全食」をコンセプトにした食品を扱っている食品D2C業者です。食べるだけで身体に必要な全ての栄養を摂取できる「完全食」にこだわっており、同社が販売する「BASE BREAD」をはじめとした食品には26種のビタミンやミネラル、 たんぱく質、 食物繊維などの豊富な栄養素が含まれています。
効果的な運動を行いたい方や健康的な身体づくりを目指している方など、美容や健康に意識の高いユーザーをターゲットとしています。まずは「スターターセット」という形で手軽に試すことができるのもリピーターを獲得する上で重要なポイントとなっています。
継続コースを購入した場合は初回20%OFFの料金になるなどリピーターがお得になるキャンペーンなども展開しており、手軽な食事で身体に必要な栄養を摂りたいと考えている多くのユーザーの囲い込みに成功しています。
snaq.me
snaq.meは毎月変わる100種類以上のおやつの中から、食べきりサイズのおやつを毎月7~8種類詰め合わせて届けてくれる「おやつ体験BOXサービス」です。単におやつを購入するだけでなく、「まだ見たことがないおやつが届く」という体験を重視しており、ユーザーにワクワク感を与える仕掛けが多くの支持を集めています。
素材にもこだわっており、全てのおやつが人工添加物やショートニング、白砂糖不使用のナチュラルな素材で作られているのも特徴的です。ECサイト上にはsnaq.meのストーリーが紹介されており、どのような理念で事業が展開されているのかもうかがい知ることができます。
環境への配慮やフードロスをはじめとした食糧問題への取り組みなど、SDGsへの意識も高く、独自性の高い食品D2Cサイトであるといえます。
森山ナポリ
https://www.moriyama-napoli.com/
森山ナポリは石川県金沢市にあるピザ工房のオンラインストアで、自宅で手軽に食べられる窯焼きピザを販売しています。「単品メニュー」と「セットメニュー」が用意されており、単品メニューでは森山ナポリが誇るおすすめのピザを1枚から購入できます。
リピーターやファミリーなどは、複数のセットメニューの中から好みのセットを購入することで森山ナポリのさまざま味を一度に楽しむことが可能です。
まずは定番のピザを試すことができる「おためしセット」や、会員限定販売の「チーズケーキセット」など、リピーターを獲得するための仕組みも用意されています。
この他にも会員向けの限定商品や新作ピザの案内などがあるため、会員登録することによってお得な情報が得られるのもメリットといえます。
ZENB
ZENBは「新主食」と題して豆が原料のZENB NOODLE(ゼンブヌードル)を販売しており、他にはない独自性の高い商品が魅力の食品D2C事業者です。100%豆から作られているヌードルはあまり見かけない物珍しさから人気を博し、既に100万食以上の販売数を記録しています。
購入は8食(2袋)からできますが、定期便を購入することによって初回10%OFF、2回目以降は5%OFFとリピーターはお得に購入が可能です。定期便も最低購入単位と同じ8食(2四袋)から契約できるため、定期便だからといって大量購入しなければならないという制約がないのは嬉しいポイントです。
他にも野菜のうまみを凝縮した「ZENB PASTE(ゼンブペースト)」や、丸ごと野菜の「ZENB STICK(ゼンブスティック)」など、他ではあまり見られないユニークな商品を展開しています。
Mr.CHEESECAKE
Mr.CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)は、「人生最高のチーズケーキ」をうたうチーズケーキブランドです。冷凍で配送されてくるチーズケーキは非常に濃厚で、冷凍・半解凍・全解凍の3つの食べ方を楽しめるなど、随所にこだわりが詰め込まれています。
Mr.CHEESECAKEの特徴はその販売方法であり、一般的なECサイトのように商品を常時販売しているわけではありません。日曜・月曜午前10時に公式サイトへアクセスすることによって、数量限定で商品を購入することが可能です。
人気商品のため売り切れが早く、時間どおりにECサイトを訪問しても購入できない可能性があるなど、「レア感」がブランドの価値を高めています。購入するためにメールマガジンに登録し、販売開始のお知らせや会員限定情報のチェックを促すなど、リピーター施策も徹底しています。
椎茸祭
https://www.shiitake-matsuri.com/
椎茸祭は、椎茸だしや干し椎茸などの椎茸に関連する商品を販売するブランドです。完全植物性・無添加であることにこだわり、うまみを凝縮した和風だしで料理の味を引き出します。
原料となる椎茸にこだわりを持っており、2017年の創業以来ずっと山の自然環境の中で育つ原木椎茸を使用して和風だしを製造してきました。ECサイト上では椎茸だしが作られるまでの工程がストーリー仕立てで紹介されており、共感性の高さを重視した作りになっています。
また、椎茸だしを使ったレシピも紹介されており、単に自社商品の紹介だけではなくユーザー目線で役立つ情報を提供することで、ファン化を促進するECサイトとなっているのが特徴です。
GREEN SPOON
GREEN SPOONは、「必要な野菜をカスタマイズして毎月自宅に届けてくれる」食品D2C事業者です。200種類もの食材の中から一人ひとりに合わせて適切な野菜を選んで配送されてくるため、健康への意識が高い方にぴったりのサービスです。
食材だけでなくフルーツやスーパーフードも含まれているため、毎月どのような食材が送られてくるのかが楽しみになる一面もあります。
最初に「パーソナルテスト」という簡単な質問に答えることで、自分に合った野菜を手軽に判別することができ、テストの結果に基づいてスムージーやスープなどの自分だけのボックスをオーダーできます。このカスタマイズ性の高さが、GREEN SPOONの人気の秘訣といえるでしょう。
andew
andew(アンジュ)は「27種類の栄養を一度に摂れる世界初のチョコレート」という触れ込みで人気を博しているチョコレートブランドです。乳製品不使用、保存料や香料不使用、スーパーフードで低カロリーといった特徴を持ち、健康志向の方やトレーニングしながら甘いものも食べたいという方に人気があります。
一般的なチョコレートは50gあたり279kcalのところ、andewは169kcalと39%のカロリーカットを実現しており、バランスの良い栄養を取りながらカロリーも抑えたいという方の希望を叶えるチョコレートとなっています。
ノーマル 、ノンシュガー、 抹茶、フルーツ、きなこの5種類のバリエーションがあるため、中長期的に食べても飽きにくいのもポイントです。5枚以上購入するとクール便が無料になり、定期配送の場合は通常価格から10%OFFが適用されます。
食品D2C成功のポイント
食品D2Cを成功させるためには、次の3つのポイントを意識して準備を進めることが大切です。
ポイント1:SNSを活用
食品D2Cでは、SNSの活用が認知度の拡大やリピーターの獲得に大きく貢献する事例が数多くあります。自社ブランドのSNSアカウントを取得して、写真や映像などを交えながら商品やサービスの魅力を積極的に発信していきましょう。多くのユーザーに情報が拡散されれば、一気に認知度を拡大できる可能性が高まります。
SNSにはさまざまなプラットフォームがありますが、特によく使われているのはTwitterやInstagram、Facebookの3種類です。Twitterは拡散性の高さが特徴で、共感を得られる投稿ができれば「RT(リツイート)」という機能で多くの人に投稿が拡散され、大きく認知度を拡大して売上を伸ばせる可能性が高まります。
Instagramは画像中心のSNSで、比較的若い年齢層に人気が高いという特徴があります。ブランドイメージが重要な商品やサービスを扱っている事業者は、Instagramによるブランディングを検討すると良いでしょう。「Instagramショッピング機能」を使うと、自社のECサイトの商品ページに直接リンクして購入までの導線を敷くことも可能です。
Facebookは前述の2つのプラットフォームに比べると長文を投稿しやすいSNSで、企業の担当者も情報収集のためによく活用しています。年齢層は40~50代が中心と高めなので、BtoBの集客をメインに利用するケースが目立ちます。
ポイント2:ストーリーやオリジナリティなどブランディングを重視
食品D2Cでは、商品の特徴やメリットだけでなく、ストーリーやオリジナリティなどのブランディングが重視される傾向にあります。その商品がどのようにして生まれたのか、開発しようと思ったきっかけは何だったのかなど、商品にまつわるストーリーを知ることによってユーザーは共感し、ブランドのファンになって商品を購入します。
近年ではカスタマーエクスペリエンス(CX)が重要視されるように、単に「モノとしての価値」だけではなく、「商品の購入を通して得られる体験価値」が求められるようになっています。このことからも、ブランディングにはできるだけブランドの背景を積極的に発信していくことをおすすめします。
また、オリジナリティは他社と差別化をはかりファンのリピーター化を促す上でも重要です。競合他社と同じような効果の商品は、「安い方で購入すれば良い」と思われてしまう原因になります。
「自社ブランドだからこそ購入したい」と思ってもらえるようなオリジナリティを提供することで、ユーザーにとって自社ブランドは「ここでしか買えない商品」となり、リピーター化を促進できます。
ポイント3:顧客との繋がりを大切にし囲い込みを意識
食品D2Cのブランディングでは、顧客との繋がりを大切にして囲い込みを意識した施策を展開しましょう。
前述のポイントでも「ファン化」が重要であるとお伝えしましたが、ユーザーはブランドと繋がっている意識を持つことによって自社により親近感を覚えるようになります。ブランドに対して好意的な感情を持つファンは、時にはレビューサイトやSNSなどで第三者に宣伝してくれる集客の役割も担ってくれます。
顧客との繋がりを深めるためには、SNSで積極的にコミュニケーションをはかったり、メルマガを定期的に配信したり、自社メディアでこまめに情報を発信したりするなどの施策が効果的です。商品を購入してくれたユーザーには、お礼のメールなど購入後のフォローも行うと良いでしょう。
できるだけ接触回数を増やすことでユーザーにとって自社を身近な存在にすることが、顧客との繋がりを深めるためには重要なポイントです。
【コラム】食品D2Cの物流はアウトソーシング可能
食品D2Cの物流は、アウトソーシングすることによって社内の運用負担を大幅に軽減できます。ここでは、アウトソーシングをおすすめする理由について解説します。
自社での物流作業は大変
物流業務は、商品の入出庫や在庫管理、梱包・出荷、配送業務などさまざまな業務があることから、自社で完璧な物流作業を行うためには非常に多くのリソースを必要とします。食品D2Cは実店舗を運営している空き時間に対応を行うケースも多いため、物流作業に十分なリソースを確保できない事業者も多いでしょう。
販売量が少ないうちは片手間に対応することも不可能ではありませんが、EC運営が軌道に乗って出荷業務が増えてくると、実店舗の運営に支障が出てしまう恐れもあります。売上を伸ばしたり販路を拡大したりするためのEC事業で顧客からの信頼を損うのは本末転倒なので、あくまでも実店舗の運営を主体に考えたいところです。
物流をアウトソーシングしておけば、ECの販売量が増えて物流作業が忙しくなったとしても、プロの外注先に任せられるため安心です。手間のかかる物流業務から解放されて十分なリソースを確保できるようになり、実店舗の運営に集中しながらD2Cの新たな展開にもチャレンジしやすくなります。
物流業務は外部に任せた方がコストを抑えられる可能性も
物流業務はアウトソーシングを検討した方がコストを抑えられる可能性も高いといえます。自社で物流体制を構築するためには、保管スペースとなる倉庫を借りるための費用や設備投資費用、物流スタッフを採用するための人件費など、さまざまなコストがかかります。
一度採用したスタッフは簡単に増減することが難しいため、閑散期であっても過剰な人員を維持し続けなければならないなどの余剰コストも発生しやすいでしょう。
しかし、アウトソーシングなら繁忙期と閑散期に合わせて物流業者が柔軟にスタッフを調整するため、人件費を常に最適化できます。さらに物流業者が所有する倉庫や設備を利用できるため、自社で設備投資のコストをかける必要がないことも、コストカットを図れる理由です。
三温帯対応の物流外注サービスを活用しよう
食品には温度管理が必要な商品も多く、自社で冷凍・冷蔵・常温の商品を適切に管理するためには非常に手間がかかります。冷凍・冷蔵商品の管理には専用の設備を備える必要もあることから、膨大な設備投資費用も発生します。
温度管理が必要な食品を含むD2C事業を行うのであれば、三温帯対応の物流外注サービスを利用することをおすすめします。
物流業者が持つ専用設備を使って、温度管理の知識とスキルを十分に持ったプロのスタッフが適切に商品を管理するため、品質を保ちながらコストを抑えた温度管理が可能になります。
事例を参考に自社の食品D2Cを成功させよう
メーカーと消費者がECサイト上で直接取引できるD2Cは、従来のビジネスモデルと比べてコストを削減し利益率を高めやすいというメリットがあります。近年では大手企業や独自性の高いブランドを持った個性的な企業が次々と食品ECへ参入し、成功事例を作り上げていますので、参入の際は既存の事例も参考にしながら準備を進めてみると良いでしょう。
食品D2Cには何かと手間がかかるため、参入の際は事前に物流の外注化を検討することをおすすめします。物流業務はプロに任せて、基幹業務に集中できる環境を整えましょう。