補助金制度とは、特定の条件を満たした事業者に対して公的機関が金銭を支給する制度のことです。支給された補助金は原則として返済不要であり、ITツールやシステムの導入の際に大幅に費用負担を軽減してくれる可能性があります。
ECに使える補助金も数多くあるため、どのような補助金が適用されるのか知りたいとお考えの方も多いのではないでしょうか。
事業者に個人や企業の区別はないため、本格的なビジネスとしてECサイトを運営する企業から副業としてECサイトを構築しようと考えている個人まで対象者は幅広いといえます。ただし、制度の種類によって条件はさまざまなので、申請前にしっかりと確認することが大切です。
今回は、ECに使える補助金について分かりやすく解説します。
ECに活用できる補助金一覧
国や自治体が管轄しているECに活用できる補助金には、次のようなものがあります。
IT導入補助金
「IT導入補助金制度」とは、事業者がITに関わるツールやシステムを導入する際にかかる費用を一部補助してもらえる制度です。高額になりがちなシステム導入費用を補助することによって、事業の活性化や売上・効率のアップを図ることを目的としています。
補助の対象となる事業者は次の通りです。
▼補助対象者
中小企業・小規模事業者等(飲食、宿泊、卸・小売、運輸、医療、介護、保育等のサービス業の他、製造業や建設業等も対象)
補助の範囲は「ハードウェア導入関連費用」や「ハードウェアレンタル費用」とされており、ECに限ると「コンテンツ制作」「ECサイト構築」「モール出店・運営」「翻訳」「サーバー設置」「プロモーション」などが該当します。
幅広い内容で補助が適用される点が魅力であり、EC事業に関わる多くのツールやシステムに活用できます。ただし、適用されるITツールは「公式サイトにて公開予定のツール」のみに限られるため注意が必要です。
なお、補助金の上限額や加減額は下記のように分類されています。
通常枠補助金の上限額・下限額・補助率
A類型:30万~150万円未満
B類型:150万~450万円以下
補助率:1/2以内
低感染リスクビジネス枠補助金の上限額・下限額・補助率
C類型-1:30万~300万円未満
C類型-2:300万~450万円以下
C類型-3:30万~150万円以下
補助率:2/3以内
他にもプロセス数やツールの目的などの条件があるため、詳しい要件や詳細の内容は公式サイトにて確認すると確実です。
JAPANブランド育成支援等事業費補助金
「JAPANブランド育成支援等事業費補助金」は、中小企業が海外へ販路を開拓ための費用を補助する補助金制度です。対象者と上限額は次の通りです。
対象者:中小企業
補助上限:500万円以内(下限200万円)
※複数社で申請の場合、1社あたり500万円追加、最大4社で2,000万円まで申請可能
補助率:1、2年目:2/3以内、3年目:1/2以内
※ただし、3年以内に海外展開を行うことを明確に示した案件は、国内販路開拓に係る部分について補助率1/2以内
例えば日本酒のブランドを世界に広めるための販路開拓や、国産のブランドタオルを海外展開するための越境ECサイト構築費用などが該当します。中小企業が自社の技術やブランドを海外に広めるための活動であれば比較的広範囲に使えるので、独自にアピールできる商品やサービスを持つ企業は利用を検討してみると良いでしょう。
小規模事業者持続化補助金
「小規模事業者持続化補助金」は、小規模事業者を対象とした補助金制度です。対象者・上限額は次の通りです。
対象者:小規模事業者など
補助上限:50万円
補助率:2/3
※コロナ特別枠および事業再開枠・特例事業者の上限引上げは受付終了しています。
こちらの補助金申請は定期的に締切が設けられています。申請を検討される場合は、締切や対象期間の確認を事前に行うようにしましょう。
事業再構築補助金
「事業再構築補助金」は、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済の変化に対応するために、大規模な事業再構築を行う事業者を支援するための補助金制度です。新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、又は事業再編などの大規模な事業再構築を図ろうとする事業者に補助金が支給されます。
▼補助上限【通常枠】
中小企業者等:100万円~6,000万円
中堅企業等 :100万円~8,000万円
▼補助上限【卒業枠】
中小企業者等:6,000万円超~1億円
▼補助上限【グローバルV字回復枠】
中小企業者等:8,000万円超~1億円
▼補助上限【緊急事態宣言特別枠】
中小企業者等、中堅企業等ともに
【従業員数5人以下】 100 万円 ~ 500 万円
【従業員数6~20 人】100 万円 ~ 1000 万円
【従業員数21人以上】100万円 ~ 1500万円
▼補助率
通常枠: 中小企業者等 2/3、中堅企業等 1/2(4,000万円を超える部分は1/3)
卒業枠:2/3
グローバルV字回復枠:1/2
緊急事態宣言特別枠:中小企業者等 3/4、中堅企業等 2/3
他業種からEC事業へ舵を切って再スタートを図るのであれば、ぜひ利用を検討したい補助金です。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
「ものづくり補助金」とは、中小企業・小規模事業者などがサービス開発や生産プロセスの改善・設備投資を行うにあたって、活動の支援を目的とした補助金制度です。EC事業者の中でもDtoCモデルで事業を行っている方が対象となるため、BtoBビジネスなどには利用できない点は押さえておく必要があります。
補助上限などは次の通りです。
▼補助上限
一般型:1000万円
グローバル展開型:3,000万円
▼補助率
通常枠: 中小企業1/2、 小規模事業者 2/3
低感染リスク型ビジネス枠:2/3
この補助金で対象となる経費は、商品の開発や生産に必要なシステム導入や機材購入などです。ECサイト構築は対象外のため、DtoCビジネスモデル以外の事業形態は対象外となる可能性があります。
定期的に締切が設けられており、不採択となった事業者は次の公募にも引き続き申請できます。補助金を前提とした大規模なECへの設備投資を検討しているのであれば、不採択となった場合に複数回チャレンジするのも選択肢のひとつです。
補助金申請前に知っておきたいポイント
補助金を申請する前に知っておきたい2つのポイントをご紹介します。
ポイント1:補助内容・採択率を把握しておく
補助金は制度によって補助内容や採択率が大幅に異なります。そのため、申し込みを検討している補助金の内容や採択率をあらかじめ把握しておくことが大切です。
補助率が高ければ高いほど高額なシステムを安価に導入できる期待は高まりますが、採択率が低い補助金に申し込んで審査を通過できなかった場合はシステム導入費用を自社が全額負担しなければなりません。
補助率が高いからといって安易に高額なシステムを導入する計画で申請すると、補助が認められなかった時に自社の財政を圧迫するリスクがあるため注意が必要です。
補助費用が高額で採択率が低いほど、同じ補助金制度に申し込んでいる競合他社と書類を細かく比較されます。必ず採択される方法は残念ながらありませんが、運用計画などを綿密に作成して説得力のある内容に仕上げることで、採択率が低い補助金でも採択の確率を高めることは可能です。
補助金を受けることによって自社にどのようなメリットがあるのか、国や自治体にどのように貢献できるのかなど、補助金の申請時に求められている内容を詳しく読み込んで的確な情報を記載した運用計画を提出しましょう。
ポイント2:申請書類の詳細を確認する
補助金の申請時は、申請書類の詳細を確認して不備のないように提出することが大切です。補助金の募集要項に掲載されている必要書類を十分に確認した上で、過不足がないことを確認してから提出しましょう。
補助金の申請書類は自社の情報やシステム導入後の運用計画の他に、会社の戸籍謄本や補助金の振込先となる口座情報、代表者の情報など、さまざまな書類の提出が求められます。必要な書類は補助金の種類によっても異なるため「以前申し込んだ補助金に必要な書類と同じものを用意すれば良い」と思い込んで提出すると、不備を指摘される可能性があります。
補助金の種類や管轄している組織によっては再提出が認められることもありますが、追加の提出が認められずにそのまま審査落ちとなってしまうケースもあるため、提出前の慎重な確認が重要です。
事前に提出書類のチェックリストを作成し、提出前に必要書類が揃っているかを一つずつチェックしていくと抜け漏れが起こりにくくなるのでおすすめです。トラブルが起こったときのためにも提出する書類は必ずコピーを取り、提出用の原本の他に手元に一式残しておきましょう。
補助金のメリット・デメリット
補助金の活用にはメリットもありますが、いくつかのデメリットもあります。双方を押さえた上で、利用するかどうかを検討することが大切です。
メリット1:充実したECストアを構築することができる
最近では無料で利用できるASPカートが普及し、誰でも手軽にEC事業を始められるようになりました。このことから昔に比べてEC事業にかかるコストは低くなりましたが、事業として本格的に運営していくことを考えるのであれば、無料で提供されているシステムだけでは機能やサポート面で不安が出てくる可能性が高いといえます。
無料で利用できるASPカートは、利用できるデータ容量が少なかったり機能に制限が設けられていたりするケースがほとんどです。また、大規模なアクセスに耐えられるだけの余力がないため、将来的に事業を拡大する予定があるなら集中アクセスに耐えうるサーバーを用意することが重要です。
イレギュラーなアクシデントにも対応しやすい体制づくり求められることからも、品質の高いシステム導入が求められます。最初は無料のASPカートで十分対応できていたとしても、事業拡大に伴って機能が不足してしまえばカートの移行を検討する必要があります。
補助金を活用すれば機能の充実したカートシステムを選びやすくなり、より品質の高いECストアを構築できます。
メリット2:実質のコスト負担を軽減できる
事業拡大に合わせて品質の高いシステムを導入したいところですが、コスト負担がネックになってなかなか新しいシステムに移行できないという例は少なくありません。補助金を活用すれば、新規システムの導入に伴うコスト負担を軽減できます。
EC事業を安定的に継続するためには、ECサイトの構築以外にもさまざまなコストがかかります。商品やサービスの新規開発やマーケティング費用、広告出稿費、運営のための人件費など費用が嵩むことを考えると、システムにかける費用負担を軽減できるに越したことはありません。
しかし、コスト面だけに注目して自社に合ったシステムを選ばずに運営すると、ECサイトのクオリティが低下して顧客満足度を損なったり、ブランディングが上手く進まなくなったりする可能性があります。
EC立ち上げ時から高いクオリティを確保しつつ実質コストが抑えられる点は、補助金の大きなメリットです。
デメリット1:先に費用を負担しなければならずリスクがある
補助金を受け取れればEC事業にかかる費用負担を大きく軽減できますが、先に費用を負担しなければならない点はリスクになり得るため注意が必要です。
補助金は誰でも申請すれば貰えるというものではなく、要件を満たしていたとしても補助金の申請件数の条件が埋まっていたり、抽選に外れてしまったりして給付が受けられない可能性もあります。審査に落ちてしまうとシステムの導入にかかる費用は自社で全額負担しなければらないため、大きな負担になる可能性もあるでしょう。
補助金はさまざまな種類があるため、もし申請した審査に落ちてしまった場合は、他の補助金に申し込んでみるのも手段のひとつです。自社に適した補助金の制度を探し、新たに申し込むことで、補助金の支給を受けられる可能性があります。
デメリット2:事業開始までに時間がかかる
補助金には実施期間が設定されているため、事業開始までに時間がかかりやすい点はデメリットといえます。
また、補助金は受け取るまでの申請手続きがやや複雑です。補助金の種類によって必要な書類や様式が異なるため、手続きの流れを十分に調べて準備する必要があります。補助金の申請は自社で行うケースもありますが、導入するシステムを提供する事業者が代理で申請できるケースもあるので、自社で申請するのが難しいときは頼るのもひとつの手段です。
他社のサポートを受けられない場合であっても、補助金の公式サイトに「よくある質問」として回答例が掲載されていたり問い合わせ窓口が設けられていたりするため、分からないことがあるときには積極的に活用しましょう。
申請が完了して支給が決定した後も、補助金を受け取るための証拠としてシステムを導入した際の領収書や発注書など、既定の書類を提出する必要があります。
補助金と助成金の相違点
「システムやITツールの導入費用が支給される」という意味で、補助金と助成金を同じようなものと捉えている方も少なくありません。しかし、両者には条件面で違いがあります。そこで、補助金と助成金の相違点について分かりやすく解説します。
補助金|予算が決まっており補助金の支給可能な件数に限りがある
補助金は「予算が決まっており、支給可能な件数に限りがある」のが特徴です。助成金は要件を満たしていれば支給対象になりますが、補助金は制度ごとに予算や件数が決められているため、上限に到達すると受付期間中であっても申し込みが締め切られます。
例えば、総額10億円・1,000件までの予算が組まれていて8/31まで申し込みを受け付けている補助金があった場合、仮に8/15に支給が決定した申し込みで予算の10億円または上限の1,000件に到達すると、申込期間が半月残っていても上限に達した時点で補助金の受付は終了です。
また、補助金は審査をクリアしなければ給付されないものもあり、要件を満たしているからと言って必ず貰えるものではないので注意が必要です。中には抽選制や先着順のものもあるため、運の要素が絡む可能性もあります。
一見するとデメリットが目立つようにも思えますが、補助金は助成金に比べて経費として使える範囲が広く、用意されている制度の種類が多いというメリットがあります。大規模なシステム導入などを検討している事業者にとっては大幅な負担軽減が望めるため、積極的に活用していきたい制度です。
助成金|条件を満たすことができれば支給される
助成金は募集条件を満たしていれば支給されるケースがほとんどであり、補助金のように厳しい審査は設けられていないのが一般的です。国や自治体から発表される募集要項をしっかりと読み込んだ上で、不備のないように申し込めば支給が期待できるケースが多いでしょう。
ただし、助成金の種類や内容によっては申請前に現地調査を行わなければならないこともあるため、公示された後に準備を始めると間に合わない可能性がある点には注意が必要です。
助成金は毎年同じ制度が繰り返し実施されることが多いため、過去の募集に間に合わなかった場合でも、次の年に再び同じ内容の募集が出るケースもよくあります。申込期限が過ぎてしまったからと諦めずに、今年も同じ募集をする予定があるか自治体に確認してみることをおすすめします。
助成金は補助金に比べると募集期間も長めに取られているケースが多いため、比較的余裕をもって書類を準備できる可能性が高いといえます。とはいえ、必要書類の取り寄せや書類作成に時間がかかる場合も考えられるので、公示と同時に申し込みを行えるように準備をしておくと安心です。
【コラム】物流外注はコスト削減に繋がる?
EC事業の運営コストを削減するにあたって、物流外注が効果的なケースは多いといえます。なぜ物流外注がコスト削減につながるのか、その理由を解説します。
外注はコスト負担があるが自社での内製よりも実質負担が少ない可能性
物流の外注はコスト負担もありますが、自社で内製するよりも実質負担が少ない可能性が高いといえます。物流を外注化することによって繁忙期や閑散期に関わらず物流を最適化できるだけでなく、社内のリソース不足解消にもつながるからです。
物流を内製する場合は物流スタッフを新たに雇用しなければならず、毎月の人件費は固定費として計上されます。閑散期で余剰スタッフが出たとしても簡単に増減できないため、不要な固定費を支払い続けなければなりません。繁忙期にスタッフが不足した場合は、高額な追加コストを支払ってスタッフを調達しなければならない可能性もあります。
外注化すると委託先の倉庫が柔軟に人員を調整しながら運用するため、物流コストを常に最適化できます。物流費を固定費から変動費に変換し、コストの軽減を可能にします。
また、事業規模が拡大すればするほど、物流に割り当てなければならないリソースは増加します。しかし、物流に対応するスタッフをすぐに増員することは難しく、一人あたりの負担が重くなり続けてしまう現場は数多くあります。
物流の負担が増えると自社の基幹業務に割り振るリソースが不足し、顧客満足度の低下を招くリスクが生じます。物流の外注化は自社の重要業務に注力するためのリソースを確保するために効果的です。
少ない物量でも外注を請け負っている企業はある
「物流を外注化したくても、大量の商品を扱っていないと難しいのでは?」とお考えの方も多いのはないでしょうか。
確かに物流業者によっては大規模事業者だけを対象としており、中小規模の事業者は外注化の対象としていないケースもあります。実際に委託を断られてしまい、自社で物流を内製するしか無くなってしまったという経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
しかし、中には少ない数量でも外注を請け負っている企業はあります。個人や小規模~中規模事業者を対象としており、商品1点からでも預けられる物流業者に外注を依頼すれば、扱っている商品が少なくても物流の外注化は可能です。
将来的な事業拡大を予定しているのであれば、早めに外注化を検討して基幹業務に集中できる環境を整えておくことをおすすめします。初期費用や月額費用がかからない物流業者もあるので、ランニングコストが気になる場合は依頼する業者を慎重に見極めることが大切です。
補助金について知り有効に活用しよう
補助金を有効活用することによって、ITツールやシステム導入の負担を大幅に軽減できます。さまざまな業種・業態に合わせた多様な補助金が公表されているため、自社に合った条件を見つけて積極的に申し込みを行ってみましょう。
補助金は事業計画の策定や申請書類の準備が助成金に比べて厳格な傾向にあり、採択されない可能性もあります。採択されなければ全額自社負担となる可能性もあるので、補助金ありきで導入を進めないことも大切です。